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日米豪で教鞭をとった著者が、過去70年の日本語指導法を概観し、最新の研究などの知見に基づいた理論とその科学的な裏づけに基づいた実践的指導法を紹介。
第Ⅰ巻は、音声
語彙 読解 聴解。2023年刊行の第Ⅱ巻は、文法 会話 作文 総合学習。
■「まえがきより
日本語を教えはじめたばかり時は、何をどう教えればいいのかわからず、とりあえず自分が担当する教科書の内容や、与えられた内容をカバーするのに精一杯という人が多いと思います。日本語教育の初歩的な指導書を読んだり、経験のある先生の授業を見てまねしてみたりするなど、教え方のノウハウを知るだけになってしまい、個々の活動が学習者の言語習得にどのように役立つのか考える余裕もないと思います。経験を積むにつれ、どのような説明や教示の仕方が学生に分かりやすいとか、こういう活動は学生が積極的に取り組むとか、授業の流れを作るにはどうすればよいのかといった、教育現場からでしか得られない知識や技能が増えていきます。経験に基づく知見は、これから教師を目指そうとする人たちが必要とする指導のコツや、留意点、そして、それを学ぶことによる安心感を与える重要な資源となります。しかし、経験を積んでもなかなか得られない知識や技能も多々あります。
<中略>
一人の教師が身に着ける教授法は、おそらくその人が初めに使った教科書や教員研修で採用されているものが主で、それに他のものを足すこともあれば、そのまま同じ教え方をより洗練されたものにしていく方が多いのではないでしょうか。教育現場は、新しい教授法を取り入れ、使いこなせるほどの余裕がない忙しい現場ですから、教師の仕事をしながら、第二言語教育に対する新たな知見を獲得し、教授法や指導法の変化についていくのは至難の業です。
<中略>
本書では、理論と実践を組み合わせることで、何を指導すべきか、それはどうしてなのか、指導するのであれば、どのようにすることが学習者の言語習得を促すのかについて考えていきます。日本語の教科書はあくまでも素材であり、多様な学習者すべてに対応できる教科書というものは存在しません。いかに効果的な指導ができるかは、自分の学生について最もよく知っている現場の教師にかかっています。教科書に依存するのではなく、学習者の学習過程や言語習得上の問題点を理解することがまず大切です。そして、授業で行う一つ一つの活動の役割や意味を考え、授業をデザインすることで、より高い効果を上げられるのではないかと思います。本書がそのための参考資料として、学習者を支援する一助となること願っています。